思考スタイル(スターンバーグ著)を解説【能力の生かし方が分かる】
教育科学の研究計画書を作成している時、この本に出会った。「人それぞれ能力の活かしやすい環境は違うはずだ!」と思っていたため、本を読んで納得感を得られた。
「なんかこの職場合わないな」
「この仕事私に向いているのだろうか」
「この学び方は私にとっては非効率だ」
と感じたことのある人には、ぜひ読んでほしい。自分の能力を最大化させる環境や方法に気づくかもしれない。
今回は、『思考スタイル―能力を生かすもの』(ロバート・J. スターンバーグ著)について、本の内容を要約する。
思考スタイルとは
冒頭で述べたように、人によって自分がもっている能力の使い方の好み(=思考スタイル)は異なる。スタイルは能力ではなく、「能力を活かすもの」である。
下記の通り、能力とスタイルはしっかりと区別しなければならない。
✔能力:何かをどれだけ上手にできるか
✔スタイル:何をどのようにするのが好きか
社会や学校では、能力については大いに議論されるが、思考スタイルについては深く考えられていない。過度に言えば、能力に取りつかれているともいえる。
例えば、全く同じ能力で、成績も同じ生徒がいたとしても、思考スタイルの違いにより、研究者として成功しやすい人、銀行員として成功しやすい人が存在する。
計算能力は高いのに、人と協働するのを好まない人は、銀行員になったときにきつい思いをするかもしれない。業務を遂行する能力はあるのに、思考スタイルが合わないと、業務で成果を出しにくい。
これから説明する思考スタイルは、職業選択など人生で重要な局面で必ず役に立つ。自分の能力の使い方を知り、効果的な成果の出し方を選び取っていこう。
さて、思考スタイルの具体的な分類についてみていく。本書では、「心的自己統治理論」をいう、思考スタイルを政治体制に例えた分類を用いている。
各スタイルの特徴
上位カテゴリ | スタイルと特徴 |
機能 | 立案型:創造的である 順守型:規則や指示に従うことを好む 評価型:分析を好む |
形態 | 単独型:1つのことに没頭しやすい 序列型:優先順位を決めて課題に取り組む 並列型:複数の課題に同時に取り組む 任意型:複数の課題に無作為に取り組む |
水準 | 巨視型:抽象的・全体的な問題を好む 微視型:具体的・細かな問題を好む |
範囲 | 独行型:一人での作業を好む 協同型:集団での作業を好む |
傾向 | 革新型:新しい手段での課題解決を好む 保守型:伝統的な手段での課題解決を好む |
自分がどんな思考スタイルを持っているかは、スターンバーグ – ワーグナー思考スタイル質問紙で測ることができる。
本書では、質問に答えることで思考スタイルを自己診断できる「自己診断項目」があるので、興味がある人はぜひ買って実施してほしい。この思考スタイル質問紙の信頼性、妥当性はいくつかの研究でもわかっている(たとえばGrigorenko & Sternberg、1997)。
また、日本の被験者を対象とした調査は比留間(2000)によって行われており、日本語に翻訳された「思考スタイル質問紙日本語版」も使われている。
思考スタイルの原理
前章「思考スタイルとは?」で概要はつかめたと思う。思考スタイルを理解するには、15のポイントを知っておく必要がある。その中でもここでは、重要な11個を解説する。より深く知りたい方は本書を参照されたい。
①スタイルは能力そのものではない
思考スタイルは、能力を使う時の好みである。例えば、創造的な才能があるのに、創造的な仕事を好まない人がいるように、能力とスタイルを区別しないで議論することは危険である。
②ただ1つのスタイルがあるのではなく、スタイルのプロフィールがある
ただ1つのスタイルだけがあるのではなく、能力と同じく複数の思考スタイルがある。創造的な人が必ず几帳面かというとそうではなく、生活はだらしないこともある。
③スタイルは課題や状況で変わる
スタイルは同じ人でもおかれた状況が違えば変わる。例えば、私は仕事では創造的なほうだが、料理するときは誰かの指示やレシピ本に従うほうが好きだ。
④人によってスタイルの柔軟度が違う
課題や状況に応じて、思考スタイルをどれだけ柔軟に変えることができるかは人により異なる。柔軟度が高いほど、そのぶんさまざまな状況に適応しやすくなる。
⑤スタイルは社会化される
スタイルはどのように形成され、発達するのだろうか。これについては次章「思考スタイルの発達」で詳しく述べるが、ここでは社会科の役割を強調しておく。子どもは周りの人を観察し、その人をモデルとして多くの特徴を内化していくことが多い。
しかし、親や教師が特定の思考スタイルのモデルになろうとしても、そのスタイルを内化させるのは次の理由から難しい。
理由①:子どもは現実やメディア上でたくさんの人を見るため、親や教師は観察される唯一のモデルではない。
理由②:子ども自身の性格があり、環境と生まれつきの素質の相互作用で価値観が形成される。子どもが本来的に持っている性格を変えることは難しい。
⑥スタイルは生涯のあいだに変わる
多くの人は年とともに思考スタイルが変わる。スタイルは能力と同じように流動的なものである。今の考え方は10年後には変わっているかもしれない。
⑦スタイルは教えることができる
スタイルの大部分は社会化を通じて獲得されるが、教えることもできる。教授法としては主に2つある。
方法①:伸ばしてほしいスタイルを利用する必要のある課題を与える。
方法②:思考スタイルの理論を教える。
⑧ある時期に尊重されるスタイルが、別の時期に尊重されるとは限らない
生涯を通じて、評価される思考スタイルは変化する。例えば、幼稚園児は探検的な遊びを行うことや主体性が尊重される。しかし、小学校にあがると、学校の規則に従うことが求められ、幼稚園で活躍していた子どもが目立たなくなり、他の子どもが活躍することがある。さらに学校を優秀な成績で卒業した生徒が、会社に入っても活躍するとは限らない。
これは少し問題である。会社に入り、下位職員として上からの指示を受け成果を出していた社員が、管理職昇進後に活躍できなかったという話はよく聞かれる。そして、指示を出し部下のマネジメントに長けている社員が、下位職員に求められる業務内容と思考スタイルが不適合し、昇進できないケースもありうる。
⑨ある所に尊重されるスタイルが、別の所に尊重されるとは限らない
1つ前のスタイルと似ているが、場面が違えば、同じスタイルでも評価が変わる。例えば、ある客にとても刺さる売り方のスタイルが、別の客に全く刺さらないことがある。商品の知識が豊富で、流暢に話し続けるセールストークを「理解が深く、信頼できそうだな」と思う客と、「買い手の話を聞いてくれなさそう」と思う客が存在する。
⑩スタイルは良し悪しではなく、適合が重要である
能力と違い、スタイルはある文脈においてしか良し悪しを判断できず、適合しているかが重要である。
⑪スタイルの適合と、能力のレベルは混同される
人は、自分自身とよく似た他人を評価しがちである。その結果、自分とよく似た思考スタイルの人を能力が高いとみなす傾向がある。
思考スタイルの発達
思考スタイルはどのように形成され、発達するか。少なくともある部分は確かに遺伝によるところもあるだろう。
しかし、それが大部分だとは思えない。子どもは周りの人やモノと相互作用するときに、特定のスタイルがうまくいくことに気づく。そしてその有利なスタイルに偏る可能性が高いだろう。このようにして、遺伝や生まれつきの組織を土台にしながらもスタイルは発達していく。
ここでは、思考スタイルの発達に影響しそうな、いくつかの要因を挙げる。
①文化
創造性を重視する国や地域(アメリカなど)で育つと立案型や革新型スタイルに引かれ、画一性や伝統を重んじる国や地域(日本など)で育つと順守型や保守型の方が多くなるだろう。
また、宗教によっては、小さい子どものころから、「教義を疑ってはいけない」と教えられることもあり、そうした集団では保守型の傾向が強まる。ただ、特定の宗教や民族集団が、他の集団よりずっと多くノーベル賞を受けることも不思議である。文化はスタイルに影響を与える大きな要因となりうる。
②性
性のステレオタイプによる影響もある。
男性は概して「冒険的、野心的、個人主義」、女性は「注意深い、依存的、従順」と見られる文化が多い。親や先生などの大人が、このような社会的役割を期待しているのを、子どもは知覚し社会化される。
③年齢
成長に従い、奨励されるスタイルが変化する。就学前は、一般に立案型が奨励される。小学校に進むと、子どもは学校の規則に従順に従うことが求められる。
④養育のスタイル
親が奨励して報酬を与えるものが、子どものスタイルに反映されるだろう。また、子どもの質問に親がどう対応するかもスタイルに影響する。
たとえば、子どもが質問することを親が奨励して、できる限り自分で答えを探すように奨励するなら立案型のスタイルを伸ばす可能性が高い。
⑤学校教育と職業
学校や職業によって異なるスタイルが尊重される。起業家と大工は成功しやすいスタイルが違うだろう。概して、正解中の大部分の学校は「順守型、微視型、保守型」のスタイルにおそらく一番の報酬を与える。
教室での思考スタイル
思考スタイルによって、学校での学習、成績に大きな違いが現れる可能性が高い。生徒を教えたり評価する立場にある人は、心的自己統治の理論から、効果的に教授する方法のヒントが得られる。
教授法と思考スタイル
本書で示された、教授法とそれに適合するスタイルである。
どれか1つの教授法に頼ることなく、さまざまな思考スタイルに適合する方法を用いる必要がある。
教授法 | 適合するスタイル |
講義 | 順守型、序列型 |
考えさせる質問 | 評価型、立案型 |
協同(集団)学習 | 協同型 |
与えられた問題の解決 | 順守型 |
プロジェクト | 立案型 |
小集団:事実的質問に生徒が答える | 協同型、順守型 |
小集団:生徒がアイデアを議論する | 協同型、評価型 |
読書 | 独行型、序列型 |
暗記 | 順守型、微視型、保守型 |
評価方法と思考スタイル
評価方法にとって、尊敬される思考スタイルが異なるため、さまざまな方法を用いて生徒を評価すべき。
評価方法 | 主に活用される技能 | 適合するスタイル |
短答と選択肢テスト | 記憶
分析 時間配分 個人作業 |
順守型、微視型
評価型、微視型 序列型 独行型 |
論述テスト | 記憶
巨視的分析 微視的分析 創造性 構成 時間配分 教師の検見解受容 個人作業 |
順守型、微視型
評価型、巨視型 評価型、微視型 立案型 序列型 序列型 保守型 独行型 |
プロジェクトと
ポートフォリオ |
分析
創造性 チームワーク 個人作業 構成 傾倒 |
評価型
立案型 協同型 独行型 序列型 単独型 |
面接 | 社交性 | 協同型 |
教授・評価のための課題と思考スタイル
生徒に課題や質問を与えるときの聞き方によって、思考スタイルの適合度が変わる。この反応を引き出す質問や促しのことばをプロンプトという。
プロンプトと尊重されるスタイルの一覧
立案型 | 順守型 | 評価型 |
創り出せ
創案せよ もし自分が~なら? 想像せよ デザインせよ どうなるだろうか? もし~なら? 理想としては? |
誰が言ったか?
要約せよ 誰がしたか? いつしたか? 何をしたか? どうやってしたか? 繰り返せ ~について述べよ |
比較対象せよ
分析せよ 評価せよ 自分の判断では? なぜしたか? どうしてそうなったか? 何が想定されているか? 批判せよ |
教室でのスタイル測定方法
思考スタイル質問紙
生徒は、質問文を与えられそれに1~7の7段階尺度で評定することで測定する。
生徒用思考スタイル課題セット
尺度ではなく行動からスタイルを測定する。例えば、生徒は「文学の勉強をするとき、私は」という書き出しを与えられ、続けて次の選択肢の中から最もあてはまるものを選ぶ。
・自分で登場人物や筋書きを考えて、物語を作るのが好きだ。(立案型)
・著者の文体を評価したり、見解を批判したり、登場人物の行動を評価するのが好きだ。(評価型)
・著者の見解について先生の意見や解釈に従い、先生のやり方で作品を分析するのが好きだ。(順守型)
・それ以外のことをしたい(記述しなさい)。(反応に応じて記録される)
教師用思考スタイル質問紙
教師が教える際に用いるスタイルを7段階尺度で評価する。
このスタイルは教師自身の思考スタイルに必ずしも対応しない。立案型の教師が、自分の考えを生徒に受け入れさせようとして、教えるスタイルとしては順守型になるかもしれない。この尺度の典型的な質問項目は次のようなものである。
・私は生徒に、生徒自身の問題解決のやり方を発展させてほしい。(立案型)
・私は、より多くのきびしい訓練を求める人や、「古き良き方法」に戻ることに同感する。(保守型)
教師評価による生徒の思考スタイル
教師や他の人が、生徒のスタイルを評価する。例えば、次の内容が、その生徒にどの程度あてはまるかを7段階尺度で評点をつける。
・この生徒は、自分のやり方で問題を解く方が好きだ。(立案型)
・この生徒は、自分や他人の意見について考えて評価する。(評価型)
私の思考スタイル
私は「スターンバーグ – ワーグナー自己診断項目」を用いて、自らの思考スタイルを測定した。
調査方法としては、各スタイルで8つの質問がなされ、1(全くあてはまらない)~7(よくあてはまる)で自分があてはまるかを答える。その平均点を計算することで、自分の思考スタイルを調査する。
カテゴリ | スタイル名 | 平均点 | スタイルの強さ |
機能 | 立案型 | 6.1 | 高い |
順守型 | 4.5 | やや高い | |
評価型 | 2.5 | 非常に低い | |
形態 | 単独型 | 4.8 | やや高い |
序列型 | 5.4 | 高い | |
並列型 | 5.9 | 非常に高い | |
任意型 | 3.4 | 低い | |
水準 | 巨視型 | 5.25 | 非常に高い |
微視型 | 2.75 | 低い | |
範囲 | 独行型 | 4.62 | やや高い |
協同型 | 4.12 | やや低い | |
傾向 | 革新型 | 5.5 | やや高い |
保守型 | 4.0 | やや高い |